妄想観覧車(パレットタウン)

「明日東京に行くから、夕ごはんつきあって」

Fからメールが届いていて、「わざわざ鹿児島から行くんだから冷たくしないでよ」と続いていた。

冷たくしてる訳じゃなく、明日は仕事だし大きな展示会の撤収の日だから20時までは持ち場を離れられない。それに、二人だけで会ったりしたらTに顔向けできなくなる。


食事は済んだけれど、これからどうすればいいんだろう。

「お兄さんの家に泊まるんだろ?」
「そうだよ。伸ちゃん、明日は仕事なの?」
「土曜日だから、休みだけどな」
「だったら、朝まで一緒にいてよ。ずっと会いたくてさ、お金貯めて会いに来たんだよ」
「そんなこと言われてもな」
「まだ、観覧車動いてるよ。乗ろうよ」
「行ってみるか」
「知ってる?あれのてっぺんでKissしたカップルは絶対別れないんだって」
「そうなのか」


「Kissしてくれないのは許すから、手くらいつないでよ」
「じゃあさ、海の方に行って話しようか」
「うん。伸ちゃん、もうちょっと優しくしてよ」
「めいっぱい優しくしてるつもりだけどな」


海の見えるベンチに座って僕らは話した。
今の日々の生活のことではなく、20年も前に初めて吉祥寺の居酒屋で会った時のことや、彼女が結婚のために鹿児島に帰った時のこと。

話題が尽きてくるとやがて沈黙がちになり、長い時間会話もなく座り続けた。
せっかく遠くから来てくれたから、手はつないであげた。

君の気持ちはわかっていたけど。
でも、僕じゃなくて幸せになっただろ。


よかったな。これからもずっとお幸せに。

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